『借りものではない物語と』道新みなみ風コラムNo.5
(北海道新聞 夕刊みなみ風 リレーエッセイ「立待岬」2017年11月27日掲載)
『借りものではない物語と』
国道5号線、大沼トンネルを抜けるとすぐ、児童自立支援施設「大沼学園」がある。いま、敷地に並ぶ寮には、小・中学生の年齢の子ども達が、親元を離れ、寮長や寮母さんと一緒に暮らしている。
学園の和太鼓クラブの先生が相談に訪れたのは去年の春。「この土地にゆかりある曲を演奏させたい」。聞くと、クラブは長い間、遠い地方の伝統囃子を手探りで練習していた。でも、道内から集い、自分と向き合う生活を送る少年たち…、その身に寄り添う物語を本当は探していた。
考えの末「郷の音(さとのね)」というお囃子を紹介し、伝えた。明治の幕開け、身分を失い、領地を離れ、北海道に新天地を求めた人々の望郷の心と開拓の夢が宿る祭囃子。数年前、宮城の作曲家佐藤三昭氏が著作権を七飯の団体に譲渡し、北国の人々のためにと贈ってくださった曲だった。
今月、学園祭で発表があった。彼らの響きに拍手は湧いた。矯正や強制では生み出せない、心の宿る、共生の音に…。
児童自立支援。自立できない大人もいる中、少年達が「自立」と向き合う。自らの足で立とうとする時、必要なのは確かな足場。「立っていても/倒れても/ここは/あなたの手のひら」。事故で体の自由を失った詩人星野富弘さんの作品の一節。体を大地に繋ぐのは地球の重力だけではない。
借り物ではない、郷土の歌。ここに立つ若人の道を支える頑強な手のひらになれ。(童話作家)