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『湧水』道新夕刊コラムNo.36

北海道新聞夕刊みなみ風コラム【立待岬】2023年4月28日掲載


地下水が、家の蛇口からあふれる町。 ダムがない。おれがダムだ、と山の声が響く町。

人の体と心をも磨く水が、ここにある。 言葉もきっと。水源から汲みあげたものこそ美しい。

横津岳の神さまが兄妹に見せてくれた 水不足の幻(記憶)の話をかきました。

*最終掲載



『湧 水(ゆうすい)』

 何歳の頃かもわからず、親は記憶に無いというが、1歳上の兄と私には確かに刻まれている出来事がある。こども心には、残ったものがあったのだろうか。

 夏頃だった気がする。水の王国を自負する七飯で水不足の御触れが回り、計画断水のようになった(おぼろげな記憶の中の話)。家には見慣れぬミネラルウォーターが並び、不安になった。冬期の雪不足のせいと言われた。このまま雪が減っていったら? その出来事を機に、雪にいっぱい降ってほしいと願う子になった。「雪なんかいらない!」と周りが言うのも仕方ないとわかりつつ、心の中では、でも、でも、とモゴモゴする。

 七飯の地名の語源は、アイヌ語の「ヌアンナイ」、豊かな沢の意味とも言われる。天空の水瓶、横津岳。そこへ注ぐ雪や雨が、森に抱かれ、地層をくぐり、磨かれながら地下に集まり、溢れて湧き上がる。湧水だ。地下水が家庭の蛇口から出る数少ない町。それゆえ、七飯にはダムがない! おれがダムだ、と山の声。私が仙台にいた頃、髪がパサパサで悩んだが、実家でシャワーした途端サラサラに戻り、驚いた。人をも磨く、美しい水。

 水不足の記憶は明確な史実が辿れず、兄妹が見た幻かもしれない。でもそうならそうで、きっと横津の神様が、こどもに見せた夢なんだろう。

 これも幼い頃。父と横津の渓流を登った。清水が出る場所で、手に汲んで冷たい水を飲んだ。静かだった。私も、当時の父のように水源を示し、触れてごらんと手招きできる人でありたい。言葉も水源から汲みあげたものこそ美しい。そんなポンプであれたら。6年目を迎える今回で最終担当とします。感謝を込めて。 ------------------------------------------------------


6年お世話になった立待岬。 一区切りとし、また読者側で楽しんで参ります。 貴重な機会を、人生未熟な私に下さった方々。 私らしいまなざしを指導くださった師匠。 優しい心でお読み&励まして下さった読者様。 みなみ風様…。


支えられました。 涙、涙で…感謝申し上げます。

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