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『あなたの語りとして聞きたかった』道新夕刊コラムNo.33

北海道新聞夕刊みなみ風コラム【立待岬】2022年8月15日掲載


終戦の今日に。

『あなたの語りとして聞きたかった』 高橋 リサ 

  今月6日、戦争とシベリア抑留の体験を伝える舞台『記憶の足音』を七飯で初演した。大切な企画だった。7年前に亡くなられた函館の画家石川慎三さんが晩年に筆をとり、残していかれた11枚の絵の展示と、映写。そして絵から想起された5つの邦楽曲(作曲家佐藤三昭氏による。彼の大叔父も抑留体験者)を私が代表を務める和太鼓会が演奏、慎三さんの回顧録を三昭氏が朗読した。慎三さんの奥様は、その絵を描き始めてからの慎三さんのご様子は、それ迄とまるで違ったと教えてくれた。


 終演後だった。30代の知人女性が、爺ちゃんも帰還者で、と話してくれた。でも多くは語らず「親友を埋めてきた」とだけ言っていたと。凍土に友を埋葬する絵を見た時、自分が聞かないでいた爺ちゃんの姿に見えたという。もっと爺ちゃんの話を聞いてあげていたら…、もう今更…と繰り返す眼から涙が溢れていた。そしてそのような後悔を語ってくれたのは彼女だけではなかった。


 過酷な体験を伝え残してくれた方々がいる事。たとえ一言でも。その声は、語りは、次世代への愛情の塊でしかない。本当はかけがえない「縁者の語り」として聞きたかった。叶わぬ悟り…孫代の語り…これすらも誰かが伝え継がない限り残らない思いになるのか。


 自分でないと聞けない人の話を聞きに、走り出したくなった。仕事の締切より命の締切が、訴えてくる夏よ。(童話作家)

 

「記憶の足跡〜石川慎三・シベリア抑留を描く〜」公演動画




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