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『夜道と少女』道新夕刊コラムNo.27

北海道新聞夕刊みなみ風コラム【立待岬】2021年7月26日掲載

 

ある大切な先輩がお話くださったエピソードを、お伝えしました。

2年前、お会いした頃は、いつも笑顔で、これからは笑って生きたくて、とおっしゃっていました。

好きな音楽を尋ねたら、椎名林檎、とお答えになったお姉さま。

 

綺麗な魂を持って生まれて。

誰にも奪われずに、守り通して、今この街で。

『夜道と少女』  高橋 リサ 

 先日、ある親しい女性が私に話してくれた。彼女が高校生だった頃、家に居場所がなかった。寝る場所と食物を探して暮らした。バイトし、学校も休み、時に土管が寝床だった。けれどその暮らしの中で思ったという。この街には歩ける道路がある。それを作ってくれた人がいる。外にいてもミサイルが降らない。誰かがそんな平和を築いてくれた。夜道を歩いていても殺されない。そんな治安に守られている。恵まれていると思ったと。

 誰かがひいたレールを疎み、飛び出そうとする少年がいる一方で、孤独な少女は夜の街で、舗装道路を踏みしめて、会ったこともない先人達の手や腕が、時を超えて自分を守っている現実を全身で捉えようとした。それは、この街のお話。少女が歩いた道は、私が青春時代、呑気に自転車で走っただろうどこかの道。

 彼女は言う。助けは無かったが救いはあった。本を読み漁った。今ここに無い愛が、どこかには在ると知った。いつか手に入ると信じ、生きた。

 彼女は今、故郷の物語を伝え残す表現活動の苦楽を共にする仲間。人が次世代を想う時、それは趣味を出て、文化活動としての光を纏う。そこに覚悟と自らの喜びを持てる人はそれだけで、素晴らしい力を備えている。

 自然に任すと消えゆくもの。偶然では残らぬもの。温かな文明と文化を創るための苦労を、どんな時代でも諦める訳にいかない。いつかの少女のためにも。(童話作家)

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