top of page

『つくりかけのユートピア』道新みなみ風コラムNo.6

(北海道新聞 夕刊みなみ風 リレーエッセイ「立待岬」2018年1月26日掲載)

『つくりかけのユートピア』

「函館は何にもないですからね」学生や若い方々からよく聞く。就職先や観光先、休日の出先がないと言う。でも、地域に「何かがない」ことはあっても、「何もない」は有りえない。断言できるほど街を知らないはずなのに。一部の大人の嘆きを真似た台詞。聞く度に、責任を感じる。

 大人らが発すべき語りは何か。街には、そのような問いと精神に駆られた活動も溢れている。続々と発信・発行される市民発の情報。まち歩き本や戦争の記憶を辿るピースマップ、史跡を舞台に大勢の市民が歴史の演者となる函館野外劇…。近頃それらが心にとまる。今私も、ある郷土創作音楽劇の上演に向け、仲間と動いているせいもあろうか。

 脚本を担う『音楽劇Ryo』。主役は男爵薯の父、川田龍吉。安政の土佐に生まれ、英国留学後、技術者や経営者として造船界を牽引。函館船渠(現函館どつく)再建のため明治後期に来函。だがその後半生は道南での農業に捧げられた。男爵の身分を持ちながら、なぜ北国で土に生きたか。多くの謎を残す中、彼の死後、金庫に金髪と英字の恋文が見つかる。偉業の背後に浮かび上がる一人の英国娘の祈りー「貴方には役割がある」。来月25日、函館市公民館。和洋楽と芝居で描く史実と外伝。

 何もない…と自分より若い方々に言わせたくない。ここを信じ選んだ人々のつくりかけのユートピアを、私達は生きている。託された仕事は、多い。(童話作家)

最新NOTE
 
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page