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『ゆきを掴む』道新みなみ風コラムNo.7

  • 高橋リサ
  • 2018年3月19日
  • 読了時間: 2分

(北海道新聞 夕刊みなみ風 リレーエッセイ「立待岬」2018年3月19日掲載)

『ゆきを掴む』

「『寒いね』と話しかければ『寒いね』と答える人のいるあたたかさ」。歌人俵万智(たわら・まち)さんの短歌の中でも愛されている一首。気温は変えられないが、感覚に寄り添ってくれる愛しい人の存在や言葉は、心も、身をも温める。

 しかし今年、この北国が体験したのは恋人の一言では超え難い厳寒。刺すような外気に当たる度、ある女子学生から教わった事が思い出された。

 仙台の大学で学んでいた頃、出会った一人の留学生。家はモンゴル遊牧民。祖国の冬は零下数十度だと話していた。

 雪の降る日。売店を出て研究棟へ戻る道で、寒い寒いと繰り返す私に、彼女は手袋を貸してくれた。寒くないのと私が聞くと、彼女は突然、そばに積まれた雪山に、はだかの両手をつっこんだ。すくった雪を自分の頬にすりつけ、言った。

「寒い時、私の家族はこうするの。すぐに温かくなる」。

 雪を掴む。冷たく麻痺した後の手は、内側から燃え出して、やがてほかほか熱を出す。強靭な血潮の意思を知る。自然と共に生きる事は、人間が持つ生きる力を引き出す事なのだと気づく。現代の様々な豊かさの中で着膨れした私の心に、彼女の教えは美しい一撃となって響いた。あれ以来、生きる自信を失いそうになる時にも、雪を握り、何かを確かめる私がいる。

 観測以来最大の降雪量だった函館。でも春は来た。私達も自然の子。芽吹き花咲く力を、心身の内に信じて。(童話作家)

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