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『ちんちん電車』道新夕刊コラムNo.13

右折しようとした時、背後に迫った「ちんちん電車」。でも、彼が鳴らした警笛は、あまりに優しいメロディーでした。ここは電車と車と人との間に兄弟のような絆を成立させる街。 いつか車のクラクションも、あんな愛のある言葉をもちたい。

(北海道新聞 夕刊みなみ風 リレーエッセイ「立待岬」2019年2月22日掲載)

『ちんちん電車』ーちんちんでんしゃー  先日、函館の電車通りを右折しようとした時、「ディロリラン♪」とメルヘンチックな電子音がした。振り向くと後ろに路面電車。慌てて車の軌道を変え、追突を逃れたが、驚いたのはその意外な警笛だった。私が子どもだったなら・・・電車さんに話しかけられた!と喜びさえしたかもしれない。妨害した私が悪いのに「ここにいるよ、そこ通るよ」と優しい言葉に思えたその音。だからこそ、もう次は迷惑をかけまい、とも思う。

 大正二年から「ちんちん電車」の愛称で生活道路を走ってきた路面電車。賑わう当時の函館で、レールを横断しようとする人々にチンチンとベルを鳴らし、接近を知らせたそう。単なる交通手段を超え、愛されてきた街の象徴。ベルが電子音に変わっても、決して恐怖を与える音にはしなかった。函館は、電車と車と人のあいだに、兄弟のような絆を成立させている街。

 立ち返って思う。自家用車のクラクションの音の、冷たさ、鋭さ。敢えて言葉にすれば「危ねえ馬鹿野郎」と聞こえる。危険を知らせ互いの安全を守る為の声色が、車社会の成熟と共に進化する未来は、いつか来るのか?

 凍てる二月。車線や標識が雪面下に閉ざされると、北国の雪道は一般交通規則を超えた新世界へと突入する。「道」って何だろう? ミチであり、ドウである。人や物がゆくべき所であり、美や徳の根元である。我らがちんちん電車は、その事を知る。(童話作家)

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