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『いってらっしゃい、どこへでも』道新夕刊コラムNo.24

北海道新聞夕刊みなみ風コラム<立待岬>2021年1月8日掲載

2021年も、どうぞ宜しくお願い申し上げます。 これまで頂いた沢山の愛情を、どうお返ししていけるだろうと思います。すぐに曇ってしまう心の埃を吹き飛ばしてくださる日々の出会いと空間に…感謝致します。

(北海道新聞 夕刊みなみ風 リレーエッセイ「立待岬」2021年1月8日掲載)

『いってらっしゃい、どこへでも』   高橋 リサ 

 昨年秋は、毎日違う学校の体育館にいた。いや、正確には芸術鑑賞会という名のもと、宮沢賢治の童話の世界に、子どもたちとおでかけしていた。夢のようなしあわせの時間だった。

 語り部とチェロと和楽器と。3人だけの一風変わった形で届けた音楽劇「セロ弾きのゴーシュ」。楽団で迷惑をかけてばかり、楽長からは感情がないと怒られているチェロ弾きの青年が、毎晩、家を訪れては色々の理由で演奏を請う動物達との交流を経て、変化してゆく物語。

 ある小学校でのことだった。最前列の真ん中の子が、途中から寝っ転がりだした。私は子狸だの、カッコウだのを演じつつ、飽きたかなとか、先生が叱りにきてしまうのではとか案じてしまった。その子は結局、最後まで寝転んだままだった。

 終演後、お茶を勧めながら校長先生がおっしゃった。「いたでしょ真ん中の子。自分の世界に、物語に没頭してましたねえ!」そして「そういう時間でした・・・」と目を細めたのだった。私の前を、やわらかな春風が渡った気がした。

 想像しよう–。『イマジン』を歌ったジョン・レノンの創作を支えた妻オノ・ヨーコさん。彼女は戦時の食糧難の中、まだ小さかった空腹の弟と一緒に「想像したおにぎり」を一口ずつ食べたという。幸せに満たされた。その体験を、忘れられないと語っていた。

 夢のような出来事が叶う童話という形式を愛した賢治、その作品の願いに誘われる瞳、そっと見守る人の瞳・・・。ああ。出会えてよかった。このような、今に。(童話作家)

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