Lisa Takahashi
2016年9月20日
貝
あなたが 真珠になったころ そっと 拾いに参ります もう誰も それを盗人だとか どろぼうだとか 言わなくなったぐらいの頃に ひとの 見なくなったころに 磨かれたその結晶に ささげたい言葉 にぎりつつ (*称名寺 紫陽花 八月)
Lisa Takahashi
2016年9月4日
歌える歌は
あんなに うるさいほどだったのに。 いつしか 日暮れから夜にかけ 鳴く虫はたった一匹になって 昨日までは、裏庭で 今日は、前庭で鳴いている。 たった一匹になったのに テンポを早めることもない。 それ以上、叫ぶこともない。 歌う歌は一生に この曲、たったひとつだけ。...
Lisa Takahashi
2016年8月24日
弦
津軽三味線の演奏をきいた。 最初は、ふりしきる雪ばかり いつしか桜の花びらにかわった。 そういう楽器を、伝統にしていく この国の人々の、こころを聴いた。 季節をひとつ踏み越えたとき、 わたしたちの年輪ひとつ、 見えない場所にきざまれていく。
Lisa Takahashi
2016年8月6日
ごめんなさいの海
ごめんなさいと さようならの海しか 知らない。 この海を出たら 生きられない。 そんな言葉のかたちをした 魚が一匹 心のなかを泳いでいる。 べつな海の魚たちは いったいどんな顔をして 泳いだり 話したり はたらいているのか… しかし 一匹の魚、 安易にとびだし...
Lisa Takahashi
2016年7月27日
朝陽に
あなたを そしてあのひとを 朝陽に すかして みてみたら どんなにきれいに ひかるのでしょう。 そういうひとになりたかった。 いちまいの すかし和紙のような。 ひっそりと 心の文様を 守り続けて生きているひとに。
Lisa Takahashi
2016年7月11日
6ぽん足と羽
もじもじしている。 アリでもハチでも ないような姿の 6ぽん足。 飛べないの?飛ばないの? その細い羽は、誰からもらって、 どうして静かに たたんだままなの。 尋ねれば ちっちゃなハチの目から なみだがこぼれた ような気がした。 飛ばなくていいなら 飛ばないでいたいの...
Lisa Takahashi
2016年6月28日
ゆうぎり
ほんのすこしだけ、待っていて。 いま、美しいものをみせてあげる。 花は咲かせたままでいて、 でも、実はつけないで、待っていて。 その実を、ふくらましきったあとなら、 あなたはきっと、何もかもに満足して、 わたしのやっと用意した風景など、 みても、なにも思わないだろう。...
Lisa Takahashi
2016年6月13日
みんなやじるしになって
いっぽ外へでれば 暴風 木の葉、枝、花、草、雲、からす みんな やじるしになっていました あちらを こちらをさしていました あの川や、あの土地、 あの子狐の身の上におきた 真実を 知ってしまったように そうして風に教えていました あっちへむかってくださいと...
Lisa Takahashi
2016年6月4日
花籠から
夕闇の裏庭 なにもかもさらけだした つつじの花弁 あおじろい珊瑚礁から やさしいお香のにおいがした この花をかきわけたら あなたのお顔がそこに うずまっているようなきがして 頬 あるようなきがして もうこれ以上 ちかづけない ありがとうも さようならも...
Lisa Takahashi
2016年6月1日
月の風なら
6月のかぜなら、 うすみどりいろをしているはずだ それなのに つめたい つめたい風が吹いてくる だれか ひとのこころのなかから 吹いてくる いけない さぼっていちゃいけない ペンをにぎれ あたたかくなるまでにぎれ なにも、どうしても書けなくても じぶんのゆびさきだけでも...